その時栗田艦隊が見たのは、
レイテ湾を護衛するアメリカの護衛空母群であった。
しかし囮作戦の成功を知らない栗田艦隊は、
これが敵の正規空母部隊であると信じた。
将兵は涙を流して歓喜の声を上げた。
夢にまでみた艦隊決戦である。この日の為に猛訓練を積んできた。
昔日の遺恨もある。戦友の仇を討ちたい。
栗田艦隊は一斉に敵空母部隊に殺到し、砲撃を加えた。
護衛空母群の指揮官スプレイグ少将は、恐怖した。
満身創痍とはいえ日本海軍の主力水上部隊である。まず勝ち目は、無い。
数分後に海を泳ぐ自分を覚悟した。
一斉に煙幕をはり、スコールに逃げ込む。戦闘機を飛ばす。
栗田艦隊は、重巡洋艦はじめ大和が、長門が、金剛が、
そしてもちろん祖父の榛名が、斉射して敵を薙ぐ。
隊形を整える時間を惜しんで各艦が独自の判断で、敵を追撃した。
栗田艦隊は、全力でこの敵と戦った。
周辺海域にあったアメリカ護衛空母軍も総力をあげて終結し、栗田艦隊と戦った。
ハルゼーの機動部隊は、必死にレイテ湾へ急いでいるがまだまだ遠い。
そして数時間後、一定の戦果を挙げたと(誤認)した栗田艦隊は、
本来の目的であるレイテ湾へ向かった。
しかしここに、大きな運命の分かれ道が待ち構えていた。
栗田艦隊は「北方に敵機動部隊あり」という誤報を信じ、
この幻の敵を殲滅するため反転したのだ。
ここに永久にレイテ湾突入への戦機は失われたのである。
たらればの話ではあるが、
この時栗田艦隊がレイテ湾に突入していればどうなったか。
レイテ湾を護衛していた水上部隊は、
西村艦隊、志摩艦隊に対する猛攻撃で弾薬をほとんど使い果たしていた。
そして輸送部隊の陸揚げはまだ完了しておらず、大量の食糧弾薬が
レイテ湾に積み上げられていた。
ここに艦砲射撃を行えば、レイテの米軍に壊滅的ダメージを与え、
マッカーサーの命を奪う可能性すらあった。
この戦争に勝利することは出来なかったにせよ
米軍の侵攻を数カ月遅らせることができたであろう。
多くの戦記では一般的に、この栗田長官を非難してあるものが多い。
だがしかし、栗田長官が反転しなければ、
栗田部隊は相当な損害を敵に与えることと引換えに全滅し、
照雄さんも戦死して当然僕もこの世にいないはずである。
そして栗田部隊が反転したそのころ、
初めての「特攻」機がこのアメリカ護衛空母軍へ向けて
フィリピン・マバラカット基地を飛び立っていた…